古代から知られている宝石の1つ、ジルコン(写真)は、ジルコニウム(Zr)のケイ酸塩(ケイ酸ジルコニウム;ZrSiO4)である。屈折率が高いため、結晶をカットして研磨するとひときわ強く輝き、無色結晶はダイヤモンドに酷似している。Zrの存在が初めて確認されたのは1789年、ドイツの化学者Martin Heinrich Klaprothがジルコン結晶を解析していた時のことだった。彼は同じ年にウラン(U)も発見しており、これら2元素が、共に現在の原子力発電に欠かせない存在であることは感慨深い。
Zrとスズ(Sn)の合金「ジルカロイ」は、高温での腐食耐性に優れ、中性子を吸収せず放射化しないことから、原子炉施設において二酸化ウラン(UO2)燃料要素の被覆管として広く使用されている。実際、原子力業界におけるZrの需要は非常に高く、生産される金属Zrのほぼ全てをこの業界が購入、中には全長数キロメートルに及ぶZr系配管を備えた原子力発電所も存在する。
Zrの主原料ZrSiO4は、主にオーストラリアや南アフリカで毎年150万トン以上採掘されている。ZrSiO4を主成分とする砂状鉱物ジルコンサンドは、高温でも高い強度を維持することから、伝統的な耐火材料として、また、炉の内張り材や溶融金属用の巨大取鍋、鋳型の製造などに使われてきた。高温環境で利用されているZr化合物には、他に「ジルコニア」という名前で有名な酸化ジルコニウム(ZrO2)がある。ZrO2の融点は約2,700°Cと非常に高温で、赤熱させて冷水中に投入しても亀裂が生じないことから、耐熱るつぼに用いられている。
純ZrO2の世界生産量は年間25,000トンに上り、これらは化粧品や制汗剤、食品包装材料から模造宝石に至るまで、実に幅広い商品に姿を変えている。だが、中でも最も意外な用途は、超高強度セラミックスだろう。この分野の研究は、潤滑油や冷却系を必要としない非金属製の戦車エンジンを開発していた軍によって推し進められたが、その結果誕生した強靭な新世代の耐熱性セラミックスは、強化鋼よりも強くて鋭く、工業用の優れた高速切削工具にも使われている。ZrO2はまた、ナイフやはさみ、ゴルフクラブなどの日常的な品々の他、耐久性と生体適合性を併せ持つことから歯科用ベニアの材料として、丈夫で耐薬品性に優れていることから有用な保護コーティングとしても使用される。さらに、ZrO2のセラミックス層は、ジェットエンジンやガスタービンのブレードの保護に用いられ、遮熱層としての役割も果たす。
ZrO2は、単斜晶、正方晶、立方晶の3つの結晶系をとる。このうち最も高く評価されているのが、ダイヤモンドと同じ結晶構造を持ち、ダイヤモンドよりもきらびやかに輝く立方晶ジルコニア(cubic zirconia:略してCZ)だ。CZでできた模造宝石は、別の金属酸化物を導入することによって着色可能で、例えば、微量のクロム(Cr)を加えると緑色、セリウム(Ce)を加えると赤色、ネオジム(Nd)を加えると紫色の宝石になる。
金属Zr自体は、さまざまな合金に利用されている。例えば、鋼はZrの添加によって強度が増し、被削性も向上する。また、金属Zrには既知の生物学的役割や毒性がないという生体適合性があり、外科用インプラントや人工器官にも用いられる。さらに、その高温での優れた安定性は、地球大気圏への再突入時に温度が著しく上昇する宇宙船への応用に最適だ。Zrの存在度は、銅(Cu)や亜鉛(Zn)の2倍以上、鉛(Pb)の10倍以上と非常に高く、全く毒性がなく環境に優しい元素とされているため、その利用はおそらく今後増え続けるだろう。例えば、塗料にはいまだに少量のPb化合物が必要とされているが、Pbの害をなくすためにZrが代用され始めている。
Nature Chemistryvolume 6, page254(2014